top of page
アンカー 1

第11話 努力は、悲劇の上に

私がまだ駆け出しの若いエンジニアの時のある国内の開発時の苦労話を一つ。

ある自動車メーカーが新規開発のエンジンを載せる車両を開発した時の事。

我々もそこにエンジンを制御するコンピュータの開発を依頼され、
一緒に開発をスタートしていました。

仕事としては、得意先自動車メーカーのエンジン設計のエンジニアが
エンジンを動かす仕様を作成し,それに基づいて、
我々コンピュータのサプライヤーがマイクロコンピュータを使ってコンピュータを設計し


それを得意先に供給し、それで試験をした上で、
仕様が改良され、コンピュータのプログラムを日々改良して開発、
満足がいくものになった時に量産化GOとなるわけですが。

この時に開発されたエンジンのためのコンピュータの仕様
に不具合があるままで量産化されてしまったことが悲劇の始まりでした。

量産開始時にはよくわからなかったのですが、
量産後半年くらい立った頃か、市場から少しずつクレームが増え始めたのです。

エンジン不調になるという不具合で、詳しい内容はここには、ちょっと書けないのですが、
とにかく、リコール対象となるような不具合でした。

この時代は車をリコールすることは、ほとんどなく、
こういう不具合が出るということはとても大変なことでした。

さて、不具合が出始めた段階で、最初はソフトウエアのミスかと思い、
それはそれは、必死になってチェックをしたのですが、
どうやらそれは、得意先から提示された仕様そのものに
ミスがあることが判明してきました。

そこで得意先のエンジン設計エンジニアと
コンピュータを設計していた我々全部で6名くらいで
ディーラーへ不具合を起こしたユーザー車両が入庫しているので、
至急 実車を調査しに行くことになりました。

ディーラーには2種類のタイプが有ります。
一つは車両メーカーが出資しているディーラーと
個人が独立資本で営業しているディーラーとがあります。

前者の場合は、メーカー自体が出資しているため、
メーカーからの出張エンジニアにはそれほど、きつく当たらないのですが、

後者の場合は全くビジネスライクであり、
また不具合については、出資者オーナー自体に不利益を被るので、
メーカーから来たエンジニアにも遠慮なく厳しく対応します。

この時のディーラーも独立資本系のディーラーで、
オーナーはメーカーの不具合に対して非常に憤っており、
出張時のエンジニアに対して非常に厳しくあたっていました。

最初にディーラーへ着いた時に、まずこのオーナーに挨拶をしたのですが、
そこで、オーナーは、このエンジニアたちを店の前の道路に整列させて、
不具合を起こしたことについてとても厳しく激しい言葉で30分以上の間、叱責し続けました。

そのディーラーは大通りに面していましたので、我々エンジニアは
一般道路の前に整列してオーナーの叱責に傾聴していたのですが

朝の一般道路ですから、多くのサラリーマン、OLが普通にその道路を通っていくのですが、
大声で叱責をされている状況を見ながら、整列したエンジニアのすぐ後ろを、
みんな何事かと見ながら通り過ぎていくんです。

我々6名は、該当の不具合車両の試験をして、なにが仕様として悪いのかを調査確認したのですが、
それがかなり時間がかかり、一通り終わったのが、夕方9時頃を過ぎていたと思います。

そこで、翌朝も 再度調査をするべく、ここで、泊まって再調査をすることにしましたが、


もう遅いためにこれから宿泊ホテルを探しても、もうありませんでした。

そこで、くだんのオーナーが出てきて、ホテルを予約してやるから  というので、
案外優しいな と思いながら、そのホテルへ行ってびっくり

なんとそこはラブホテルでした。。なんとびっくりしましたが、


他に泊まるところもないので、しかたなく、そこで、泊まったようなわけです。

まあ そんなことで、苦渋の上不具合要因をさぐり、改良の手段を決定しましたが
その間、このエンジンの仕様を設計する、顧客の部隊は、非常に辛い立場に立たされました、
やはり社内外から批判もあり、そのプレッシャーたるや尋常ではないようでした。

我々は仕様を受けて、コンピュータを作る側のため、プログラムミスではないため、
責任はないとは言え、顧客の状況を見るのは辛いものがあり、
最大限の協力をしたものでした

特に顧客の部隊の課長さんは非常に責任を感じ、
日に日にやつれていくのが目に見えてわかりました。

そのうち、この課長さんは、脳溢血のような状況になり、
多分、耐えきれない様な心痛のため、血液が脳出血のようになったとの噂を聞き、
そこで、また暗い気持ちになったものでした。

その後、車は仕様が修正され、ユーザーに人的障害が出る前に解決しましたが
くだんの、課長さんは、その後亡くなったとの噂を聞きました。 


直接聞くこともできなかったので、うわさでしかないのですが。

エンジニアは時として重い責任を持たねばならないこともあり、
それは、別に他者からのプレッシャというや、自責の念が大きい場合も含めて
そういうものに押しつぶされてしまうことも有るのです。

しかしミスのない製品などはこの世に存在しない、だからエンジニアリングとして
フェールセーフ(不具合時の最小影響化)等の処置をするわけです。

「辛い経験こそが人を強くする」という言いますが、
できるなら、つらい経験などはしないに越したことは無いと思います。

bottom of page