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アンカー 1

閑話余談 (4)知られざるスピード カーレースの世界

車は、エンジンを始めとする様々な機械と電気、電子部品で動くようになっていますが

かつては、全てが機械が主体であった車のそうした機器も電子化されつつあった90年代後半。

 

とは言っても

殆どの制御機器が電子化され、車内には制御系の通信ネットワークが張り巡らされている現在と比べて燃料系と点火系がコンピュータで制御され始めまだ、60~70%の車が電子化されようとしていた時代。 

 

そんな時代にレースカーもその例外ではありませんでした。

レースカーといってもそのカテゴリーには千差万別の種類があり、専用のレース場を走り、レース用の車体仕様を規定されているフォーミュラーカーや市販車をベースに高速化しているカテゴリーやまた一般道を市販車で駆け抜けるラリーカーの世界もあります。

 

カーレースの世界には全く素人で、それまでは全く興味もなければ、見ることもなかった私が、レース車用の機材開発をして欲しいとの命を受けて取り組むことになったのが、Cクラス(グループC)カテゴリーのレースカー用電子機器でした。

 

時速350kmを記録するレース仕様車であり、このカテゴリーで有名なレースとしては、ル・マン24時間レースがあります。

 

とにかく、レースの現場を知らないと話にはなりませので、レース開催日にレース場へ、それもマニアには申し訳ないが、まさにドライバーとサポートチームがいるがピット内へ入れるパスを得て、ヘルメットを被っていざレース場へ。

 

さあそこで見たものは。。。ピット前直線コースを最速350km以上で瞬時に駆け抜けるレースカー。その爆音、空気の振動たるや想像を絶するものでした。そして、こんなに心奮い立たせ、鳥肌を立たせる車の造形がこの世にあったのかと思うものでした。

 

そして。。。レースの花といえば、そうキャンギャル(キャンペーンガール)という若いきれいな人が水着でレーススタート前にドライバーが調整中の車の横でパラソルを持って立っているんですが、3月の寒い時期でも水着ですから、大変だなと思いながら。。

でも、そういう華やかな一面、その横では、エンジニアが油にまみれて機械の調整、タイヤなどの交換をやっているわけですから、すぐ目の前でそういう光景を見るとちょっと他のスポーツや催事と比べると異質ではありますね。

 

またドライバーの方と何か食事の時に、ご一緒した時もありますが、通常はレース服を着ていてわかりませんでしたが、

まじかでみるとドライバーの方の首がとても太い事に驚いたことを記憶しています。やはりカーブの時にかかるとてつもない横Gに耐えるため、首を鍛えるんだそうで、鍛えようがない首も鍛えることができるんだなと感心したり、驚いたりしました。

 

さて、レース車の環境ですが、それはそれは、事前に思っていたものとは、。全く異なっていました。

 

まず、レースカーそのものは、エンジンを始め、その他の機材は全て当然レース用に開発され、高度にチューニングをされたものですが、それをサポートするコンピュータシステムがその時代の一般車の環境ではありませんでした。

 

まず、エンジンを始めほとんどの機材をリアルタイムでモニタリングするために、複数のテレメータリングシステム(無線による遠隔監視装置)を搭載、そのデータはピット内奥にある数台のコンピュータシステムに送られ、5、6台のディスプレイを備えて、車の殆どの状態をリアルタイムで表示、レースチームリーダーはそれを見て、解析レース運びとかレースのドライバーに適切な指示をだすものでした。

 

言ってみれば、ピット内は、コンピュータシステムの塊と言っても過言ではなく、スピードレースは市販車の一歩も二歩も先を行く違う意味で、ハイテクの世界でした。

そんな具合で、やはり車と言っても市販車用の機材とは全く異なる電子機器の開発をスタートしたわけですが、これがまた難しいのなんのって。

 

まず、エンジンの回転数がとても高い。電子機器の処理速度はエンジンの回転数についていかなければなりませんので、通常の車は最高約6,000回転/毎分くらいであるのに対して、レースカーは、その倍以上の15,000回転~16,000回/毎分もあるので、電子機器と言ってもとても普通のやり方では追いつきません。

 

とか、レースカーは速度を出すためには、できるだけ軽いほうが速度は出るので、機器を極限まで軽くなければなりません。電子機器といえども通常の半分の軽さを実現することが、かせられた命題でした。部品の材質から検討し直す有り様でした。

 

そんなこんなで、レース用のエンジンを制御する新しいコンピュータ機器を開発し、いざレース本番へ。

ここで、レース場について、少し述べると、レース場として、国内で有名なところでは

 

鈴鹿サーキット、富士スピードウエイ、九州大分県のオートポリス といったところが国際レース場として、有名ですが、そうしたレース場を転戦、転戦してレースが行われるので、サポートチームである我々も各レース場に出かけては、レースの状況を見ては、その結果でシステム改良、改善を繰り返すわけです。

 

レースカーは、トヨタ、日産、マツダ、ジャガー、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、プジョーといったところがメジャーなメーカーでそのスポンサーとともに車両を作って、1チームが複数の車両で走行します。しばらく経つと、それぞれの車によって、その音に特徴があることが、素人の私にもわかってきました。

 

メルセデスの中音域を伸ばしたエンジン音、マツダのロータリーエンジンの発するかなり高い周波数の音(当時はマツダは市販車同様ロータリーエンジンが主力でした。レース用のロータリーエンジンなんてどんなものか見てみたいとは思いましたが。。とにかく爆音は特徴的なものでした。)など

 

そのうち、素人の私にも、音だけでどこのメーカーのレースカーが通ったかが分かるようになりました。またマニアの人に聞くとそうした音の違いがスピードレースの醍醐味でもあると言っていましたが。

 

さて、レース用の電子機材はどうかというと、とにかくスピードレースというのは機材を壊すために走ると言っても過言ではありません。なにせ限界まで攻めるわけですから。

 

ドライバーに限らず、すべての機材が悲鳴をあげます。エンジンは焼きつき、

ミッションはカーブでシフトダウンした時のショックに耐えられず破壊され、

足回りは強烈な横Gと加減速で亀裂が生じ、センサー類は高音で破壊。。。

 

機材そのものは、限界まで軽量化していますが、強度も限界まで持たせなければならない

 

いつもいつも毎回、毎回そんな風に何らかの故障、また故障で、また改良で。。。そうした中で最後まで走りきったチームだけが栄冠を得られるといった具合でした。もちろんレースドライバーの運転技術は言うに及ばずですが、私は素人ですからその辺はわかりませんでしたが。とにかく機材設計担当としては過酷なものでした。  

 

そして、率直な感想として、市販の世界と比べてなんと刹那的な世界かと思ったものでした。

 

壊れることが当たり前で、それを是とせず毎回改良してレースを走り切るという世界があることを技術者として初めて知ったものでした。

 

そうそうこの年の フランス ル・マン24時間耐久レースに我々のサポートチームも出場しましたね。あいにく私は、行きませんでしたが。結果は。。。?

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